2026-08-16
セキュリティキャンプ X4 講師記
背景
セキュリティキャンプには受講生として,のちにチューターとして参加していましたが,就職を機に足が遠のいていました. 学生が主役の場だと思っているので,社会人がチューターに応募するのは筋が違うという気持ちがあったためです. ある日キャンプを通じて数年お世話になっていた先生からお声がけをいただき,講師を務めることになりました. 当の先生が講師からプロデューサに移られ,席が一つ空いたのだと思います. 自分に講師が務まるとは思えず,一度は辞退しようとしましたが,声をかけてくださった方の顔に泥を塗るのも変だなということで引き受けました.
事前準備
まずテーマを決めなければなりません. せっかく枠をいただいたからには,実力の有無とは別の話として,自分にしか還元できないものを出すべきだと考えていました. その線でいくと FIA だと思いました. AirTag に対する FIA が発見されて以降,ゲームコンソールや中華カメラを少しづつ解析していました. FIA はまだマイナーで,今後脅威になる可能性があり,知見のある人も,実製品に対して実際に成立させられる人も少ないということで,題材としては手頃だと判断しました.
講座の計画は簡単に決まりました. 昔の実験記録を掘り返し,当時使っていた評価ボードと市販のゲームコンソールを買い直し,手元で再現できるところまで確認してから教材に落としています. 実機は機種名を伏せますが,難易度は低めで,かつ原理の説明がしやすいもので,ちょうどよい塩梅でした.
当日
前日まで DEF CON でラスベガスに出張しており,そのままキャンプの会場へ移動しました. 移動と,会場までの道に迷ったのとで,到着は 19 時ごろでした. とはいえ初日の講師に仕事はないので,持ち込んだ機材を並べ,他の講師の方と話しているうちに終わりました.
講義は翌日からです. 事前学習でセットアップと理論の説明は済ませてあったので,初日からハンズオンに入ってもらいました. 講義一日目は評価ボードへの攻撃,二日目と三日目は市販製品の解析にあてています.
オシロスコープの扱いや回路の設計といった,実機に触れないと身につかない部分では苦労していた様子でしたが,グリッチ用ファームウェアの実装や FIA モデルの作成は,生成 AI をうまく使って進めていました. 自分は手を動かして実装しないと理解できない性質なので,感心しました. 生成 AI の出力に踊らされ,何も分からないまま先へ進む例は見飽きていますが,今回の受講生とチューターはどちらも効率よく生成 AI を活用していました. こういった姿勢は見習わないといけないと思いました. また,驚いたのはその進度でした. 講義二日目の終わりには目標としていたグリッチが通り,市販のゲームコンソール上で Linux が起動しました. ちなみに途中テストポイントのパッドをはがしてしまい,途中まで自分がリワークしていたのですが,この手のリワークには自信がなく,これをミスったらこの後の進捗がすべてパーになるというプレッシャーに負け, 別の講師の方にも手伝っていただきました. 情けない…
三日目には,追加の目標としてコンソール上でプレゼンテーションを動かすことを掲げました. 三日目は報告資料の作成もあり多くの時間を割けませんでしたが,最後には投影までこぎ着けています. Homebrew でできることではあるものの,画像の再生が重かったり,メディアコーデックの差でファイルが再生できなかったりと,細かい不首尾は続きました. それでも三日目のうちに動かしきったのは,目を見張る仕事だったと思います.
所感
セキュリティキャンプ講義について
受講生もチューターも非常に優秀で,要領よくハンズオンを進めていました. とりわけ計測器の使い方や回路設計は,考え方さえ伝えれば意図まで汲んでくれるので,こちらとしても進めやすかったと思います. 評価ボードも市販製品も易しいものを選びましたが,もう少し難しい題材でもよかったかもしれません. とはいえ三日間という枠を思えば,このあたりが限界という気もします.
FIA について何度か議論をする中で,受講生からの質問に答えられなかった場面が一つありました. 自分が当たり前だと思っている現象をうまく説明できないというのは,要するに勉強不足だと思いました. 前提を疑うことがハードウェアセキュリティの姿勢なのに,それができていなかったというのは反省だなと思います.
それ以外の所感
いろいろな人と話ができました. 技術の会話が地の言葉として通じる場所に数日間いられたのは,率直に楽しかったと思います. Twitter で一方的に存じ上げていた方に会えたり,ありがたいことに縁の続いている方々に挨拶ができたりもしました. 普段は会社と大学と家のあいだを往復しているだけなので,こういう機会に人と話せるのは得がたいことです.